趣味を活かした社会貢献ビジネスの「もしも」に備える:リスク管理・緊急対応計画の作り方
趣味やスキルを活かして社会貢献ビジネスに取り組む皆様にとって、事業の継続と拡大は重要な目標です。資金調達に成功し、顧客や実績も積み重ねてこられたことと存じます。しかし、事業が軌道に乗るにつれて、予期せぬ「もしも」の事態に直面するリスクも増えてくる可能性がございます。
自然災害、思わぬ事故、顧客からのクレームや炎上、主要な取引先や協力者との関係悪化、法規制の変更、そして何より資金繰りの急激な悪化など、様々なリスクが事業継続を脅かすことがあります。これらのリスクに備え、被害を最小限に抑え、速やかに事業を復旧・継続するための準備をしておくことが、皆様のソーシャルビジネスを持続可能なものとするために不可欠です。
本稿では、「もしも」の事態に備えるためのリスク管理の考え方と、小規模事業者でも実践できる緊急対応計画(BCP:事業継続計画の考え方を取り入れたもの)の作り方について、具体的なステップを交えて解説いたします。
事業における「もしも」とは?想定すべきリスクの例
まずは、ご自身の事業で起こりうる「もしも」の事態を具体的に想像してみましょう。想定すべきリスクは事業内容や地域によって異なりますが、一般的に以下のようなものが考えられます。
- 経済的リスク:
- 資金繰りの急激な悪化(売上激減、経費増加、入金遅延など)
- 予期せぬ大きな支出の発生
- 取引先の倒産や支払い不能
- 人的リスク:
- ご自身や主要な協力者の病気や事故、離脱
- スタッフやボランティアの離脱やトラブル
- 情報漏洩や不正行為
- 物理的リスク:
- 自然災害(地震、台風、洪水など)による活動場所や設備の損壊
- 火災や事故
- 資材や商品の供給停止
- 信用的リスク:
- 顧客からの重大なクレームや訴訟
- SNSなどでの風評被害や炎上
- メディアによる誤報や誹謗中傷
- 法的・規制リスク:
- 関連法規の改正や新たな規制の導入
- 許認可の取り消し
- 知的財産権侵害などの訴訟リスク
- システム・技術リスク:
- 利用しているITシステムの障害やサイバー攻撃
- ウェブサイトのダウン
- データ消失
これらのリスクを、ご自身の事業に照らし合わせてリストアップすることから始めます。
リスク管理の基本的な考え方
リスク管理は、大きく以下の3つのステップで構成されます。
- リスクの特定: どのような「もしも」の事態が起こりうるかを洗い出します。(前述のリストアップがこれにあたります)
- リスクの評価: 特定したリスクについて、「発生する可能性」と「発生した場合の事業への影響度」を評価します。これにより、どのリスクに優先的に備えるべきかが見えてきます。影響度としては、経済的損失だけでなく、信用失墜、活動停止期間なども考慮します。
- リスクへの対応: 評価に基づき、以下のいずれか、あるいは複数の対応策を検討・実施します。
- 回避: そのリスクが発生する活動自体を行わないようにする。
- 軽減: リスクが発生した場合の影響を小さくするための対策を講じる(例:予備資金の確保、複数取引先の確保)。
- 移転: リスクの一部または全てを第三者に移転する(例:保険加入)。
- 受容: 発生可能性も影響度も低いリスクであれば、特に何もしないことを選択する。
緊急対応計画(簡易BCP)の作り方
リスク管理の考え方を踏まえ、具体的な緊急対応計画を作成しましょう。これは、文字通り「緊急事態が発生した場合に、どのように行動するか」をまとめた計画です。
ステップ1:事業における最重要業務を特定する
緊急事態が発生しても、最低限これだけは続けたい、あるいは可能な限り早く復旧させたい業務は何でしょうか? 例えば、 * 顧客へのサービス提供(特定分野のみでも) * 支援者からの問い合わせ対応 * 最低限の収益を確保するための活動 * 情報発信(安否情報や状況報告) などを優先順位をつけて特定します。
ステップ2:特定した最重要業務に対するリスクと影響を評価する
ステップ1で特定した各最重要業務について、前述のリスクリストからどのようなリスクが影響を与えうるか、そしてその影響度(どのくらい停止するか、復旧にどのくらいかかるか、損失はどのくらいかなど)を具体的に評価します。
ステップ3:対応策(予防、軽減、回復)を策定する
各リスクに対して、発生を予防するため、発生時の影響を軽減するため、そして発生後に速やかに回復するための具体的な行動計画を策定します。
- 予防策:
- 情報漏洩を防ぐためのパスワード管理徹底やセキュリティソフト導入
- 資金繰り悪化を防ぐための定期的な資金繰り表作成と予備資金確保
- 契約書作成による法的リスク軽減
- 軽減策:
- 活動場所が損壊した場合に備えた代替場所の検討
- 連絡が取れなくなった場合に備えた複数の連絡手段の確保
- 重要なデータや顧客リストのバックアップ
- 回復策:
- 被害状況の確認手順
- 関係者(顧客、支援者、協力者)への連絡方法と内容
- 復旧作業の優先順位付け
- 外部専門家(弁護士、税理士、IT業者など)への連絡先リスト
- 必要な資金を調達するための緊急連絡先(金融機関、行政窓口など)
特に資金繰り悪化への備えとしては、緊急時の借入枠の設定や、活用できる公的融資制度の情報を事前に調べておくことが有効です。
ステップ4:計画を文書化し、関係者と共有する
策定した計画は、誰が見ても分かるように簡潔に文書化します。そして、ご自身だけでなく、事業に関わる主要な協力者や家族とも内容を共有しておきましょう。緊急時に計画の存在を知っている人がいなければ意味がありません。連絡先リストや、バックアップデータの場所なども含めて共有することが重要です。
ステップ5:定期的に見直しを行う
事業を取り巻く環境は常に変化します。策定した計画も、時間の経過とともに陳腐化する可能性があります。事業内容が変化したり、協力者が変わったりした際には、計画を見直し、必要に応じて修正を行いましょう。年に一度など、定期的な見直し日を決めておくことをお勧めします。
資金繰り悪化という最大のリスクへの備え
多くの個人事業主・小規模事業者にとって、資金繰りの悪化は事業継続を脅かす最大のリスクの一つです。これに対する備えは、緊急対応計画の中でも特に重要です。
- 予備資金の確保: 可能であれば、数ヶ月分の固定費を賄える程度の予備資金を確保しておくことを目指しましょう。資金調達に成功した際に、一部をこの予備資金としてプールしておくことも有効です。
- 資金繰り計画の精度向上: 月々の収入・支出を正確に予測し、キャッシュフローを把握する習慣をつけましょう。早期に資金不足の可能性を察知できれば、対策を講じる時間的な余裕が生まれます。
- 複数の資金調達手段の検討: 融資、補助金、クラウドファンディング、寄付など、これまでに活用したことのある手段だけでなく、緊急時に利用しやすい制度や、新たな資金調達先の情報を収集しておきましょう。金融機関との関係構築も平時から進めておくことが望ましいです。
- 支出の見直し: 緊急時には、固定費を含む全ての支出を見直す必要があります。削減可能な経費を事前に把握しておくと、迅速に対応できます。
まとめ
趣味を活かした社会貢献ビジネスを持続可能にするためには、リスクから目を背けず、起こりうる「もしも」の事態に事前に備えておくことが非常に重要です。緊急対応計画の策定は、難しく考える必要はありません。まずはご自身の事業におけるリスクを洗い出し、最低限守りたいものを特定し、それに対する簡単な対応手順をメモするところから始めてみましょう。
この計画は、緊急時だけでなく、日々の運営においても、リスクを意識し、より盤石な事業体制を築くための指針となります。皆様のソーシャルビジネスが、様々な困難を乗り越え、社会に貢献し続けられるよう、本稿がその一助となれば幸いです。